前立腺肥大

前立腺は、男性の膀胱の出口近くにある尿道を取り囲むようにして存在し、主として前立腺液により精子に栄養を与えて活動を盛んにする役割の臓器です。その大きさは通常、成人男性で一般的にクルミ大と表現されています。前立腺肥大症では前立腺がニワトリの卵やミカンほどの大きさにまで肥大することもあります。


前立腺肥大症のもっとも重要な症状は尿が出にくくなる排尿障害です。排尿障害は、前立腺組織が増えて肥大することによる物理的な尿道の圧迫と前立腺平滑筋の収縮により生じる機能的閉塞の2つが原因といわれています。

60歳以降に多く、70歳以上で70%、80歳以上で80%近くが前立腺肥大になるとされ、加齢とともに増加します。


前立腺肥大の症状は第1期、第2期、第3期に分けられます。


  • 第1期(膀胱刺激期)は頻尿、尿が間に合わない感じでトイレにたどり着く前に尿が漏れてしまう、軽るい排尿困難、トイレに行ってもすぐに尿がでない、尿が勢いよくでない、排尿に時間がかかるなどがみられます。

  • 第2期(残尿発生期)はお腹に力を入れないと尿が出ない、残尿、昼間の頻尿、突然の尿閉などがみられます。

  • 第3期(慢性尿閉塞期)は膀胱の収縮力が低下し、高度の排尿困難をきたしたり、尿意そのものを もようしにくくなり、ぱんぱんになった膀胱からあふれるように尿がでたりします。

  • 排尿が健全に行われるには、尿をため、排出するという機能が正常に働く必要があり、正常な蓄尿機能とは、尿がたまると尿意を感じる、尿意を感じてからもある程度排尿を我慢できる、十分な尿を膀胱にためることができることなどです。

    また、正常な排出機能とは、意図すればいつでも排尿することができる、特別な努力なしに排尿できる、ある程度は排尿を中断することもできる、残尿がないなどです。


    排尿をつかさどる中枢は、脳に存在する高位中枢と仙髄に存在する下位中枢に大別され通常は、膀胱や尿道の括約筋は下位中枢によって尿をためるように収縮しています。尿がたまると尿意として知覚され、下位中枢から高位中枢へと伝達されます。これに対し、高位中枢は排尿を抑制するように指令を出しており、意図的にその指令を解除することで排尿が行われると考えられています。

    このことは、排尿障害が高位中枢、膀胱、尿道括約筋、さらにはこれらを結ぶ神経路、知覚神経な どの異常によってもおこることを示しています。


    蓄尿障害の症状としては夜間頻尿、頻尿、尿意切迫感、失禁などがあり、排出障害の症状としては遷延性排尿、苒延性排尿、尿線狭小、尿線途絶、腹圧排尿、尿閉などがあります。

    排尿障害をおこす疾患は、前立腺肥大症、過活動膀胱、神経因性膀胱、膀胱結石、膀胱内異物、膀胱頚部、硬化症、前立腺癌、前立腺炎、前立腺結石、尿道狭窄、尿道腫瘍、精神的排尿困難症など幅広い病気でおこります。


    前立腺肥大症と前立腺がんを判断するため、採血によりPSA(前立腺特異抗原)を測定し、一般にPSA 4.0ng/mL以上であれば前立腺生検をおこないがんの有無を確認する必要があります。

    直腸診では、肛門から指を挿入して前立腺を触診し、大きさや硬さ、硬結の有無を判断します。前立腺肥大症では、肥大した弾性硬の前立腺を触れて感知し、がんでは石様硬の表面不正な前立腺を触れて感知します。

    また、便器一体型の尿流量測定装置を用いて排尿の勢い、排尿量、排尿時間を測定し、排尿後には超音波検査により残尿を測定する。最大尿流率5mL/秒未満または残尿100mL以上は重症であり、内服治療で改善が認められない時は手術療法になります。


    尿閉や高度排尿障害の場合は、尿道から膀胱にカテーテルを入れて水または生理食塩水を注入し、尿のたまり始めから排尿にいたるまでの膀胱内圧の変化を測定する尿道内圧測定が行われることがあり。尿道内圧測定は、特に神経因性膀胱の可能性がある糖尿病や神経疾患の患者さんに対して行われることが多いです。

    このほか、内視鏡により前立腺尿道の閉塞や尿道狭窄、膀胱結石の有無を確認する膀胱内視鏡検査、水腎症や膀胱の肉柱形成の有無、前立腺肥大による膀胱底の挙上、排尿後の残尿の程度を確認する静脈性尿路造影などが前立腺肥大症の診断に用いられます。


    前立腺組織が増えて機械的閉塞を起こすメカニズムとしては、男性ホルモンのアンドロゲンが前立腺細胞内に入り、5α還元酵素によりジヒドロテストステロンに変換されて、ジヒドロテストステロンがアンドロゲン受容体に結合し、DNA転写活性を介して細胞増殖をきたすと考えられています。

    5α還元酵素には2つのタイプがあり、Ⅰ型は肝臓や皮膚に、Ⅱ型は毛根に現れますが、前立腺には2つ共に現れます。


    もう1つの排尿障害のおこる原因として前立腺平滑筋の収縮により生ずる機能性閉塞で、交感神経終末から放出されたノルアドレナリンが平滑筋細胞膜のα1受容体に結合して、イノシトル三リン酸が増えます、これにより細胞膜上のカルシウムイオンチャネルが開口し、Ca2+が細胞内に流入するというメカニズムがあります。

    α1受容体は、種々の作動薬、遮断薬に対する親和性の違いにより、いくつかのタイプに分類され、肥大した前立腺組織ではα1受容体が正常の6倍ほど多くあらわれています。前立腺肥大症では、こうしたα1受容体の発現増加により機能的閉塞をきたしやすい状態になっています。


    ごく軽症の前立腺肥大症については、植物エキス製剤のエビプロスタット、セルニルトン、アミノ酸製剤のパラプロストなどが有効なこともあります。軽症から中等症の前立腺肥大にはα1受容体遮断薬の塩酸タムスロシン(ハルナール→ハルナールD)で膀胱頸部および前立腺平滑筋がゆるみ、機能的閉塞が解除されますが副作用がでる場合があります。


    その後、前立腺肥大症の頻尿、尿意切迫感などの蓄尿症状にはα1A受容体よりα1D受容体の関与が大きいとして、α1D受容体選択性を高めたナフトピジル(フリバス)が開発され、より強いα1A受容体選択性をもつシロドシン(ユリーフ)もあります。


    中等症から重症例については、α1受容体遮断薬に加え、前立腺縮小効果を期待して抗アンドロゲン薬が併用されてきました。抗アンドロゲン薬単独の前立腺縮小効果は20%~30%、自覚症状の改善は50~60%とされていますが、効果があらわれるまでに2~3カ月かかり、副作用もみられPSA値を低下させる作用もあります。

    5α還元酵素阻害薬のデュタステリド(アボルブ)は、テストステロンからジヒドロテストステロンに変換する1型および2型の5α還元酵素を阻害する薬剤です。


    前立腺肥大症の手術は、尿道から内視鏡を挿入し、尿道内腔より電気メスを用いて前立腺を切除する経尿道的前立腺切除術が一般的に行われていましたが、最近ではより安全かつ確実に治療効果が得られる方法として、ホルミウムレーザー前立腺核出術や経尿道的前立腺蒸散術が注目されています。


    最近では尿意切迫感を必須症状とし、頻尿と夜間頻尿を伴う過活動膀胱が注目されており、超音波検査で測定した残尿量が50mL以下であれば抗コリン薬を開始します。

    前立腺肥大症を合併した過活動膀胱の場合は急性尿閉をきたせば、尿道から膀胱にカテーテルを挿入して導尿しなくてはいけなくなります。

    前立腺肥大症の尿閉リスクを低減するため、抗精神病薬・抗うつ薬・抗不整脈薬、市販の風邪薬など抗コリン作用のある薬剤との併用は注意が必要です。



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