多発性硬化症

多発性硬化症(Multiple Sclerosis)は中枢神経系の脳・脊髄に障害が起こる難病で、発症年齢のピークは30歳前後で、男女比は1:2~3と若年女性で発症率が高い疾患です。発症には人種差がみられ、特に欧米の白人に多く、北米には人口10万人当たり50~150人の患者さんがいるといわれています。日本では比較的まれな疾患で、従来は10万人当たり1~5人といわれていました。しかし患者数は増加し、現在では10万人当たり10人、約13000人の患者さんがいるといわれています。


発症に人種差があることは、遺伝的要因が発症に関与していることを示していますが、欧米に移住した日本人の発症頻度が高くなることから、環境要因も関与していると考えられています。環境要因としては、感染症や喫煙、有害物質が指摘されていますが、近年日本で患者数が増加していることから、食生活などの環境要因も関与していると考えられます。また、以前から緯度の高い地域で発症が高いことからビタミンDとの関連も注目されています。


多発性硬化症は中枢神経系の慢性炎症性脱髄性疾患の1つです。神経活動は、神経細胞から出る細い神経線維を伝わる電気活動によって行われており、中枢神経系の多くは神経線維が髄鞘に覆われた有髄神経です。髄鞘は、電線でいえば銅線を絶縁しているビニールのようなものですが、多発性硬化症では、この髄鞘が損傷を受けるので、脳や脊髄で有髄神経線維が集中する白質が侵されます。一般的に、有髄神経では髄鞘に覆われていない部位(ランビエ絞輪)で脱分極が起こり、速い跳躍伝導が起こるため、髄鞘が損傷を受けると神経伝達に障害が生じます。また、髄鞘の損傷が大きく、再髄鞘化も上手く行われない場合は神経細胞も損傷を受けます。


多発性硬化症は再発と寛解をくり返すことが多く、その間に何回も脱髄が起こり、さらに中枢神経系の複数の部位が障害され、古い脱髄病変が硬くなることから多発性硬化症と名前がつきました。


免疫系は、ウイルスや細菌などの外来微生物を攻撃・排除するために発達したシステムで自分を攻撃する免疫細胞は、さまざまなしくみで排除あるいは制御されています。しかしその仕組みが破たんして自分を攻撃する免疫細胞が活性化すると自己免疫疾患が起こります。多発性硬化症では髄鞘に反応するリンパ球が何らかの原因で増殖し、それらが活性化されると中枢神経に侵入し、そこで髄鞘抗原で再活性化されて髄鞘を攻撃すると考えられています。


多発性硬化症の症状は多彩で特異的なものはなく、症状のあらわれ方や経過も個人差が大きいといわれています。主な症状としては視力障害、脱力感やしびれ、膀胱直腸障害、易疲労性などです。


多発性硬化症の自然経過は、1、再発・寛解型、2、再発・寛解型→二次進行型、3、一次進行型の3つに大別されています。このうち最も多いのは、再発と寛解をくり返す再発・寛解型です。初期は再発と寛解の区別が明瞭でも、次第に明らかな再発がみられないままに病状が悪化するのが再発寛解型→二次進行型です。明確な発症時期や再発がわからないまま、病態が進行して経年的に重症化する一次進行型もあります。


多発性硬化症の治療は急性増悪期の治療、慢性増悪期における再発・進行抑制の治療、対症療法に分かれます。急性増悪期の治療としては、ステロイド剤によるパルス療法が第1選択になりますが、その有効性が低い場合は血液浄化療法が良いこともあります。 再発・進行抑制にはインターフェロンβ製剤が使われています。この薬剤は自己反応性リンパ球の中枢神経系の浸潤を阻害する薬剤です。 多発性硬化症の再発・進行を抑制する薬剤は、今後、多くの種類が登場すると思われます。しかし、一次あるいは二次進行型に有効な治療薬はまだないのが現状です。さらに多発性硬化症では多彩な症状が認められるため、個々の患者さんの症状に対して、さまざまな対症療法が行われています。 多発性硬化症は治癒する疾患ではありませんが、再発・進行を抑制することで、かなり改善してきました。再発の原因となるリンパ球の活性を抑制する研究、障害された髄鞘を再生させる研究が進んでいます。




多発性硬化症と漢方へ

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