不眠症

人それぞれに就寝時刻と起床時刻は、ほぼ決まっていて、通常は夜間に睡眠をとります。これは、睡眠が体内時計の支配を受けて、いつ眠るのかのタイミングを決める調節機構によります。さらに、仕事や娯楽で夜更かしをして睡眠時間が短くなると、翌日は日中から眠く、夜の睡眠時間も長くなり、深い睡眠の割合が増えます。逆に昼寝をとりすぎると、その夜はなかなか眠くなりません。


人は常に一定量の睡眠を確保しようとする調節系、恒常性維持機構(常に身体の環境を快適な一定した状態に維持する)を備えています。睡眠は体内時計と恒常性維持の2種類のシステムで調節されています。これら体内時計機構と恒常性維持機構の2つが、状況に応じて相互に関連しながら、睡眠の質・量およびタイミングを制御しています。


人の生体リズムは多くの動物と同じように体内時計によって調節され、約25時間の周期で活動と休息のリズム信号をだしていますが、24時間周期で変化する外部環境とは約1時間のずれを生じています。 このずれを調節する重要な役割を果たしているのが光で、光信号が目から入り、体内時計としての役割を果たす視交叉上核へ伝達されてこのずれをリセットし、昼間の明環境と夜の暗環境が正常な睡眠・覚醒リズムを作り出しています。


通常、起床直後に太陽光が目から入ると、体内時計に時刻の情報として伝達され、朝の時報に体内時計を合わせます。こうして体内時計によってリセットされた時刻から12~13時間は代謝が高められ、血圧、脈拍が高めに保持され、覚醒して活動するのに適した状態になります。これが朝の光を浴びてから14~16時間くらい経過すると、松果体からメラトニンの分泌が始まり、手足の末端からの放熱が盛んになります。こうした放熱により身体の内部や脳の温度が低下してくると、1~2時間のうちに自然な眠気が出てきます。太陽光に対する生体時計のリセット機能により、朝起床して太陽光を最初に浴びた時刻に応じて、夜に眠気が出現して自然に眠くなる時刻が決定されます。朝の起床時に十分な太陽光を浴びずに、暗い部屋で昼過ぎまで眠っていると、こうした概日リズムのリセットが適切に行われず、その日の入眠時刻が遅くなります。一方、夕方から夜の時間帯に強い光を浴びると、昼の時間が延長することになり、休息への準備が遅れ、結果的に入眠時刻が遅れることになります。


生理的にみた1日の総睡眠時間は新生児でも16~17時間、小児期で10~12時間、青少年期で8.5~10.5時間と次第に短縮し、青年期から中年期にかけては7~8時間とほぼ安定しています。その後は、加齢とともに短縮する傾向にありますが、実際には睡眠時間には個人差があり、また季節によっても変動します。


睡眠のパターンはもともと個人によって違いがあり、年齢によっても変化していきます。例えば、幼年期の眠りは、比較的深く、また、早く寝て早く起き、時には昼寝をするというサイクルをもっています。成年期には、それが遅い時間にまとめて深く眠るようになります。老年期になると、再び早く寝て早く目が覚めるようになります。しかし、その眠りは浅く、昼間に何度か軽い昼寝をするなど、「分散して睡眠をとる」ようになります。睡眠が浅く分散していると、なかなか眠れなかったり、夜中にちょっとしたことで目が覚めるなど、不眠に陥りやすくなります。つまり、高齢になると不眠の人が多いのは、このような眠りのサイクルが関係しています。


レム睡眠(浅い眠りで身体は眠っているのに脳は活発に動いている)は新生児では総睡眠時間の約半分を占めていますが、次第に減少して小児期で20%程度となり、成人とあまり変わらなくなります。その後は加齢にともなって減少し、高齢者では15%程度となります。 睡眠中は、深い睡眠と浅い睡眠が周期的に繰り返されています。入眠すると、浅い睡眠を経て、深い睡眠となり、その後、ふたたび浅い睡眠に移り、レム睡眠に入ります。このサイクルを1周期として一晩の睡眠中に4~5回、くり返しています。1回目の周期はおよそ106分、4回目ではおよそ80分となり、徐々に周期は短くなります。平均的には1周期およそ90分と言われています。 睡眠には個人差があり、また生活状況により睡眠への不満や居眠りへの許容度も変化します。不眠の治療目標は何時間眠るかではなく、日中の精神的・身体的活動に支障のない睡眠がとれるかです。不眠があり、睡眠時間の長短にかかわらず、翌朝の覚醒時に睡眠に対する不足感が強く、患者さん自身がそのために身体的、精神的、社会生活上の支障があると判断している状態が不眠症と診断されます。


不眠症は小児期や青年期にはまれで、典型的には10~30歳代に始まり、中年以降から急激に増加し、40~50歳代でピークになります。 不眠には入眠障害、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害があります。中でもなかなか寝付けないと訴える入眠障害の患者さんが多く。一般的には入眠に30~60分以上かかり、本人がそれを苦痛と感じている場合は入眠障害と判断されますが、客観的には正常な睡眠がとれているにもかかわらず、自己睡眠に関する主観的評価とが一致しないために、強い不眠感を訴える場合が多くあります。


  • 入眠障害・・・寝つきが悪く、床に入ってもなかなか眠ることができない場合をいいます。
  • 中途覚醒・・・一度眠りに入ってから起床するまでの間に、何度も目が覚めてしまい、目が覚めてからしばらく眠れず、睡眠がとぎれるため、熟睡感が得られません。
  • 早朝覚醒・・・早朝に目が覚めて、それから再び寝付くことができない場合をいいます。早朝覚醒は、高齢者以外にも、うつ病の患者さんに多くみられます。
  • 熟眠障害・・・寝つきはよくても、夜中に目が覚めてそれから眠れなくなり、深い睡眠が持続しない場合をいいます。

  • 年齢が高くなるほど、不眠に悩む人が増えてきます。中高年の不眠に多いのは、「中途覚醒」と「早朝覚醒」です。


    中途覚醒の原因・・・中高年の年代は、退職や子供の自立などで生活パターンが変化しがちです。仕事や子育てなどで忙しかったころより、おのずと運動量が減ります。また時間に縛られることが少なくなり、床にいる時間が比較的自由になります。運動量が減ることなどで、若い頃よりも必要な睡眠時間も減ります。この必要な睡眠時間よりも長時間床にいると、途中で目が覚めやすくなります。また、加齢に伴って眠りそのものが浅くなることも、中途覚醒の原因の一つです。


    早期覚醒の原因・・・体内時計の周期が加齢によって短くなることが早期覚醒の大きな原因です。周期が短くなると、体内時計が進んでしまいます。そのため、夜早くから眠ってしまい、早朝に目覚めてしまうことになります。早朝に目覚めて光を浴びると、さらに体内時計が進んでしまい、ますます早くから眠ってしまうようになります。


    眠れないと言っても不眠症とは決めつけられなく、不適切な睡眠衛生習慣によって眠りにくくなったり、熟睡できないということはよくあることです。夜間のみならず昼間の生活についても具体的に聞く必要があります。


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